「人」のための店

全日本コーヒー協会の統計資料によると、喫茶店の数は1981年をピークに減少の一途であると言われています。しかし、同資料ではここ数年のコーヒーの国内消費量は若干の増加傾向にあることがわかります。この差はなぜ生まれたのでしょうか。

各地では有名カフェのチェーン店やコーヒーショップが続々と店舗を増やしており、今流行りのパンケーキやドーナツ、クレープが食べられる話題のスイーツ専門店なども次々と開店しています。有名なコーヒースタンドのカップを持って町を歩く人の姿は今や珍しいものではなく、一種のファッションとしても定着しています。スイーツが売りの専門店でも、もちろん焼き立てのパンケーキやクレープに合う美味しいコーヒーや紅茶は欠かせません。コーヒーは町の喫茶店やカフェだけで消費されるものではなくなったと言えるでしょう。

しかし現在、「サードウェーブ」と呼ばれるコーヒーのブームが再び昔ながらの喫茶店やカフェに注目を集めています。サードウェーブとは文字通り「第三の波」であり、インスタントコーヒーが登場してコーヒーが人々の身近な飲み物になったファーストウェーブのブーム、そして香りやコクを追求して淹れたてのコーヒーを提供するスタンドが人気を博したセカンドウェーブのブームに続く、第三のブームのことを指します。注文した客の目の前で丁寧に豆をドリップし、時間をかけて最高の状態の一杯を提供するという、まさに昔ながらの喫茶店での光景を思わせる営業形態のコーヒーショップがアメリカで話題を呼び、バリスタが時間をかけて入れてくれる良質なコーヒーの人気が再び高まってブームとなっているのです。

連日行列ができるような話題の有名ショップやチェーン店、スイーツ専門店ではふわふわのパンケーキ、揚げたてのドーナツ、そして熱いコーヒーなどが優しい甘さと豊かな香りで訪れた人々を満足させるでしょう。しかし、町のこじんまりとした喫茶店やカフェで得られる満足感はそれとはまた違った種類のものではないでしょうか。「商品」を求めて店に足を運ぶのか、「店」で過ごすために足を運ぶのかという違いとも言えるかもしれません。最小限に絞られたBGM、焙煎された豆の香ばしい香り、磨き上げられたグラスが静かに整列したカウンターの向こうではマスターがじっとドリップの一滴を待っている、そんな光景の一部に自分が溶けこんでしまったような感覚を味わえる場所で飲むコーヒーは唯一無二の一杯であり、深い満足感をもたらすはずです。

スイーツにしろコーヒーにしろ、「人」が「人」のために手間と時間をかけて作り上げた一品と空間は、今後も多くの人々の心を魅了し、長く愛されていくことでしょう。